2018年から世界銀行で非正規雇用(Short-term Consultant)として勤め始めた私ですが,実は2019年にジュニア・プロフェッショナル・オフィサー (Junior Professional Officer: JPO)の選考を受けて無事合格し,同年9月から晴れて(準)正規雇用になりました。
今回の記事では,世銀のJPOがどういったポジションなのかについて書いていきます。
次回から私が経験したJPOの選考プロセス・面接対策・面接の内容について書く予定です。
前提知識: 世銀の構造
前提知識として必要な世銀の構造について説明します。
出資金と理事会
世銀は加盟している先進国から出資金を集め,その資金を発展途上国に融資・贈与することを主な任務としています。この任務を遂行するのは,出資国から集まった理事で構成される理事会と呼ばれる組織です。理事会の構成メンバーは投票で決まるのですが,その投票権は1国1票ではなく,出資国の出資額に応じて配分されます。つまり,沢山出資してる国ほど世銀の運営に対して力を持つ,ということです。2019年の国別の出資金割合を見てみると,日本はアメリカに続き世界2位です。したがって,理事の選挙において日本は多くの投票権を持っているということです。

出資金と職員数
一方で,世銀で働く職員の数を見てみると,出資額に応じたものとはなっていません。実際,日本は出資額2位にもかかわらず,日本人職員は全体の約1%程度です。出資額と職員数が比例していない国は日本だけではなく,他にもドイツや韓国など数ヶ国あります。そういった国々の「沢山出資してるんだから,うちの国民を特別枠で世銀の職員として受け入れてよ」という声に応えるための制度の1つがJPOです。
JPOの概要
JPOというのは「世銀への出資額が多いのに職員が少ない国が,専門性のある自国の若手人材を世銀職員として送り込み,国際機関での就業経験を積ませ,将来的に世銀に残り続けられるような人材を育てるシステム」です。日本を例とした概要図がこちらです。
JPOは完全なる世銀の正規職員というより,トレーニングの意味も含んだポジションなので,「JPOは正規職員とは言えない」という人も中には居ます。正直どっちでもいいですが,待遇は完全に正規職員と同じです。
契約期間
契約期間は2年 or 4年です。少なくとも最初の2年間は保証されています。2年後の契約終了時に所属している部門のマネージャーがパフォーマンスを評価し,契約延長かどうか判断します。
契約が延長された場合は,JPOの期間がプラス2年伸びます。最大4年です。
自国からのサポート
最初の2年間は自国政府がJPO職員の金銭的サポートを行います。給料自体は世銀職員の給与体系がベースですし世銀のシステムで振り込まれますが,給料の源は自国政府の税金です。
世銀本体の資金源から給料が支払われるわけではないので,世銀としては労働力をタダで手に入れられてラッキーと言えます。
2年後に契約延長が決まった場合は,3年目の給料は世銀の予算から支払い,4年目はまた自国政府が支払う,というトリッキーな仕組みです。
待遇
給与
世銀本部の給与体系は以下の表のようになっています。職員は下っ端から総裁までグレードが割り当てられ,そのグレードに対応した給与が支払われます。専門職はAnalystレベルのGEから始まります。次がProfessionalレベルのGFです。JPOはこのGEとGFの間あたりです。ちなみにGGがSenior,GHがManager,GIがDirectorという感じです。平社員(GE/GF)でも手取り年収1200万円くらいです。
給与以外の手当
本部のワシントンDCに勤務する職員がアメリカ人でない場合,「遠くの国から来てくれてご苦労さま」的なニュアンスの手当て Mobility Premiumを最初の5年間頂けます。2019年での支給額は家族構成によって異なり以下となります。
- 本人のみ: $18000
- +配偶者: $26500
- 3人家族: $33000
- 4人家族: $40000
年金・健康保険
共に加入できます。健康保険はプラン次第ですが月々の掛け金は$100程度ですし,毎月支払う年金も退職後に全て返ってくるので良心的です。
JPO職員に求められていること
自国政府はJPO職員が将来的に世銀に残り続けられる人材になることを期待しています。
残り続けるためには,まず就業から2年後の契約延長にまで漕ぎ着けなければなりません。そのためには2年間で世銀での業務を学び,組織内でコネクションを広げ,最大限パフォーマンスを発揮する必要があります。しかしながら,契約延長するには世銀が身を切って予算から3年目の給料を支払う必要があるので,そう簡単に契約延長してもらえるわけではありません。
また,契約がプラス2年延長されたとしても,ただ過ごしているだけでは4年目の契約終了時にクビになってしまいます。したがってプラス2年の間に所属部門か他部門の正規職員のポジションに応募し,組織内で職を得て,自力で残り続ける必要があります。
なかなか厳しい世界です。
JPOの募集
募集のプロセス
募集は1年に1度 2-4月からスタートします。この機会にJPOを採用したい世銀の部門は,業務内容と求めるスキルなどを記した募集要項(Terms Of Reference: TOR)を作成します。TORは先程説明した「世銀への出資額が多いのに自国職員が少ない国」約15ヶ国にランダムに配布されます。したがって,1つの募集枠には1つの国にのみ割り当てられるため,同じ国籍の人材同士が各枠を争うことになります。各国の世銀支部はこの配布されたTORをもとに採用活動を行っていきます。
ちなみに2019年のJPO公募の日本人枠は6枠でした。私の応募したTORはこちらです。
募集職種
募集職種は完全に募集する部門次第なので毎年異なります。 2019年度の日本人6枠は以下です。
- 貧困分析: 家計調査のデータ解析 (私が応募したやつ)
- 信託基金業務: 資金調達の分析
- エネルギー: 融資プログラムのモニタリング補佐
- 経済分析: 女性の労働参加などの分析
- 教育: 教育プロジェクトのサポート
- 交通: 交通のデータ・リサーチや分析
応募条件
ざっくり言うと「修士号を持ってる若手で2年以上実務経験がある方」です。
2019年度の募集ホームページには以下の7点が応募条件として記されています。
- 世界銀行の各職種に関連する分野で修士号(MBA、CFAを含む)を保有する方
- 募集職種が定める必要とする実務経験を持つ方
- 英語で職務遂行可能な方
- 日本国籍を持つ方
- PHRDスタッフグラントなど過去に日本政府の支援を受けたことがない方
- 年齢:2019年4月1日現在で35歳以下の方
- 2年以上の関連分野での実務経験
終わりに
以上,JPOについての大まかな説明でした。記事中の間違いなど見つけた方はコメントやツイッターで教えて頂けると幸いです。
次回から私が経験したJPOの選考プロセス・面接対策・面接の内容について書きたいと思います。